どのような圧力センサーが水素に適しているのでし ょうか?

エネルギーキャリアによる水素の普及に伴い、適切な圧力センサーの必要性も高まっ ています。水素は化学およびプロセス産業で長年に渡り低圧で使用されてきました が、H2 モビリティのアプリケーションでは新しい課題が発生しています。1,000 barを 超える測定範囲、限られたスペース、多様な仕様が要求される高コスト圧力監視には、新しい革新的なセンサーの概念が必要です。

水素分子は、すべての物質の中で最小の分子であるため、一般的な多くの鋼材やその他の材料の構造に浸透するとい う特性があります。その対策として、構造体により恒久的に 漏れを防ぐ、または構造体への浸透を考慮する、若しくは2 つの効果の組み合わせがあります。水素脆化はよく知られて おり、浸透した水素が鋼材の構造を変化させるという事態が 引き起こされます。透過、すなわち膜表面に水素の吸着(吸 収)や膜材料を介した拡散および膜背面への放散の問題 は、壁の厚さが十分に確保できる圧力タンクなどのアプリケ ーションでは問題になりません。しかし、各部材の厚さが本 質的に薄い圧力センサーの場合、測定メンブレンを介した 水素の浸透は、圧力センサーの計測機能に障害をもたらす 可能性があります。

圧力センサーの構造と物理的な動作原理に応じて、さまざ まな影響が出る可能性があります。次のセクションでは、水 素がエネルギーキャリアとして使用されるときに一般的に 用いられる圧力センサーの最も重要な影響について説明し ます。また、水素透過(の有害な影響)を防ぐためにどのよう な技術的解決策を採用しているか、そしてこのことからどの ような長所と短所が生じるかを説明します。最後に、適切な 圧力センサーの最も重要な選択基準と評価および認定時に 注意すべき点をご案内しています。

 

工業用水素アプリケーションでは、ピエゾ抵抗式センサーま たは金属薄膜歪式センサー(P.3 動作原理を参照)のいずれ かがほぼ独占的に使用されます。他のセンサーの原理は、技 術的に不適切であったり(たとえば、焼結材料の多孔性が高 いセラミック歪式センサーは不適切)、ニッチな製品は高価 すぎるので採用できません。

 

ピエゾ抵抗式圧力センサー

ピエゾ抵抗式センサーの場合、分離膜の壁の厚さが非常に 薄くなります。 分離膜の壁の厚さ70マイクロメートルは大き な課題です。分離膜自体は標準で水素対応AISI316Lででき ているため、脆化のリスクがほとんどありません。ただし、高 圧では、水素が薄い分離膜を通って封入オイル内に拡散す る可能性があります。オイルに溶解した水素はそこで気泡を 形成する可能性があり、これにより突然の信号オフセットが 起こり、気泡が再び溶解するとすぐに圧力曲線に応じて自然 にオフセット復帰することがあります。

 

対策として、分離膜の 水素側に吸着バリアとして機能する金コーティングを施す方 法があります。 Trafagによるテストでは、保護として機能する ためには、この金コーティングの層に特定の最小厚さが必 要であることが確認されています。薄すぎる場合、マイクロス クラッチによって損傷する、または金層の接着力が不十分で あることによるメッキプロセス時の不純物で気泡ができると 保護効果が低下します。

金属薄膜歪式センサー

一方、金属薄膜歪式センサーは、センサーカップを十分な厚 みで作れます。通常は水素に適さない材料(17-4PHまたは 1.4542)、つまりニッケル含有量がかなり少ないマルテンサ イト系高性能鋼でできています。対して、ニッケル含有量が 約13パーセント以上のオーステナイト鋼は水素適合性があ ると見なされます。したがって、代替の鋼合金を使用する必 要があります。但しセンサーカップにスパッタリングされた 抵抗ブリッジがよくストレッチし、使用可能な信号が生成さ れるように高い降伏点が必要です。残念ながら、AISI316Lな どの多くのH2互換鋼はこの要件を満たしていません。 AISI316Lメンブレンを備えた鋼製センサーを使用する場合、 通常、長期安定性に適したスパッタ抵抗ブリッジは装備され ません。また、歪による抵抗の変化を大きく出力できるコー ティングが施されていますが、信号ドリフトの影響を受けや すいことがよくあります。

我々の最大の目標は、H2に順応性があり、同時に薄膜式セン サーの構築に適した適切な合金鋼を見つけることです。スパ ッタ抵抗を備えた金属上薄膜セルの場合、ニッケル含有量 が高く十分な降伏点を持つ非常に適しているオーステナイ ト鋼合金がいくつかあります。しかし、センサーメーカーにと って、これらの鋼材の難しさは、低ドリフトセンサーを製造で きる高品質材料を品質を含め長期的に安定して鋼材メーカ ーから仕入れることが出来るかです。通常、重要なパラメー タは、構造、合金、熱処理の均一性です。さまざまな合金で作 られた既存の弊社独自のセンサーや競合他社のセンサーを Trafagで水素媒体による試験をした結果、今日提供されてい るソリューションの多くは、空気または油の従来の測定流体 よりも長期使用では大幅にドリフトがあることが分かって おります。しかしながら豊富な経験、長年の集中的な研究、 及び数え切れないほどのテストで、Trafagは、より優れた水 素適合鋼で作られた金属薄膜歪式センサーの開発に成功し ました。

性能目安(基準)となる長期安定性

水素用圧力センサーの長期安定性は、圧力トランスミッター を評価する際の主要な基準になっています。形状と寸法、電 子部品および機械的構造は、工業用圧力センサーとして長 年に渡る多くの採用実績から、ほとんどの場合、水素アプリ ケーションでの要件も満たしていると考えます。但し、センサーの長期安定性、即ち測定精度が変化しないこ とが、特に水素アプリケーションでは重要であり、使用期間 中にわずかに変化することをも避けなければなりません。長 期安定性の低さは、主にゼロ点ドリフトに反映されます。こ れは、圧力がないときに信号がゼロを示さなくなることを意 味します。 実施されたテストでは、文献で最大の問題として頻繁に言及 されている脆化は、Trafagセンサーは発生しませんでした。標準形センサー、つまり水素非適合材料で作られたセンサ ーでの破壊テストでは、出力信号はすぐに大きなドリフトを 示しましたが、水素適合材料で作られたセンサーは、水素環 境で長期間使用した後でも、破壊圧力の低下も示されませ んでした。このテスト結果から、特に3つのパラメータが水素 用圧力センサーの長期安定性に大きな影響を及ぼしている と言えます。

  • 圧力:圧力が高いほど、拡散が強くなり速くなります。機構 部の動きが浸透した水素の移動を容易にするため、加減 圧を交互に繰り返すことで拡散がさらに加速します。
  • 温度:温度が高いほど、水素の有害な影響が早く現れます。 脆化は約60℃から減少しますが、拡散は増加し続けます。
  • 時間:水素への暴露時間は重要です。出力信号の偏差は 特定の時間の後にのみ明らかになりますが、線形偏差で はありません。

 

100 barの水素での標準的な薄膜センサーのゼロドリフト
100 barの水素でのH2適合鋼製の薄膜センサーのゼロドリフト

 

圧力と温度の影響は明らかであり、試験基準の評価では考 慮されますが、暴露時間は十分に考慮されていないことがよ くあります。 Trafagでのテストは、水素に対して不適切な標 準膜鋼で作られたセンサーは、10,000時間の水素曝露後に のみ特徴的なゼロ点ドリフト現象を示すことがあります。ま た、ゼロ点ドリフトが実際にいつ始まるかについて大きなば らつきがあることが示されています

これらのドリフト現象の多くは、鋼製センサーでは元に戻す ことができます。センサーが水素にさらされなくなると、水素 濃度はゆっくりと低下し、特に約80°Cを超える高温では比較 的急速に低下します。

水素用圧力センサーの評価結果

適切な水素圧力センサーの選定は、ユーザーにとって大き な課題です。更に、誤った圧力測定は、人命を危険にさらす など、深刻な結果につながる可能性があります。したがって、 価値のあるテストは、理想的なアプリケーション指向でのテ ストセットアップで数千時間にわたって実施することです。ア プリケーション指向とは、とりわけ圧力レベル、圧力サイク ル、および温度条件が、ターゲットアプリケーションの最悪の 場合の条件に合わせることを意味します。このような複雑な 方法でテストをする必要のあるさまざまなデバイスの選定 には、過去からの継続した集中的な内部認定テストを実施 している豊富な経験とノウハウを持つメーカーの製品のみ を検討することが重要であると考えます。


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各種圧力センサーの機能原理

ピエゾ抵抗式圧力センサー
測定流体の圧力がダイヤフラムシール に作用し、ダイヤフラムシールの動きに よる圧力を封入オイルに伝達します。封 入オイル内の半導体抵抗素子の活性層 は、圧力によって変形します。その形状の 変化により、抵抗値が変化します。ダイア フラムシールは、正確な圧力を封入オイ ルに伝達できるように、非常に薄くする 必要があります。

ダイヤフラムシール、オイル充填、および活性層を 備えたピエゾ抵抗圧力センサーの概略断面図。ダイヤフラムシール、オイル充填、および活性層を 備えたピエゾ抵抗圧力センサーの概略断面図。
ダイヤフラムシール、オイル充填、および活性層を 備えたピエゾ抵抗圧力センサーの概略断面図。
ピエゾ抵抗式圧力センサーピエゾ抵抗式圧力センサー

金属薄膜歪式センサー
測定流体の圧力が鋼膜に作用します。こ れは厳密に定義された剛性を持ち、その 特殊な形状のために非常に限られた局 所のみが変形します。抵抗値は、最大の 変形点で測定流体とは反対側に面する 側で測定されます。ダイアフラムの動き に応じて、抵抗値が増加または減少し、 抵抗の絶対変化の合計は、ホイートスト ンブリッジを使用して測定されます。

有限要素モデルとしての鋼製センサーの断面図。 上は減圧状態、下は最大圧力状態です有限要素モデルとしての鋼製センサーの断面図。 上は減圧状態、下は最大圧力状態です
有限要素モデルとしての鋼製センサーの断面図。 上は減圧状態、下は最大圧力状態です
金属薄膜歪式センサー金属薄膜歪式センサー


著者について

Andreas Koch

Head of Marketing and Product Management

Dipl. FH(機械工学)、EMBA

2011年よりトラファグにて勤務

Trafag AG マーケティングおよび製品管理責任者、Andreas Koch 氏Trafag AG マーケティングおよび製品管理責任者、Andreas Koch 氏