絶縁ガス等のガス密度を高い精度でのモニタリングを可能にした「リファレンスガスチャンバー方式」

「リファレンスチャンバー方式」によるガス密度モニタリングは、1980年代にトラファグが開発し特許を取得したもので、高電圧を扱う電力業界で絶縁ガスのガス密度モニタリングの業界標準となっています。 電力業界からの「信頼性」「精度」「安定性」「耐久性」等の高い要求を満たすためには、このリファレンスチャンバー方式のもつ完全な温度補償の原理が最も適しています。

ガス密度モニタリング:温度補正は必須

密封されたガスは「圧力」「密度」「温度」が相関関係にあり、この関係は特定の絶縁ガスごとにアイソコア(等容変化)によって定義されます。 そして絶縁ガスの絶縁性能は、特定の温度で特定の圧力をもたらすガス密度によって発現されます。 気密性の高い絶縁ガス容器では、ガス密度は常に一定ですが、温度の変化により容器内の圧力は変動してしまいます。

図: 一定の SF6 ガス密度 (アイソコア) を表す線の例 - 一定の体積での圧力と温度の変化。

蒸気圧曲線:SF6 の等価ガス密度

蒸気圧曲線: SF6 の等価ガス密度の線蒸気圧曲線: SF6 の等価ガス密度の線

リファレンスチャンバー方式の原理:リファレンスチャンバー(c)は、ユーザーの仕様に対応したリファレンスガスが、あらかじめ正確に定義されたガス量で充填されています(f)。 リファレンスチャンバーの中にはベローズ(d、e)があり、図の下側からモニタリングする絶縁ガス容器内の絶縁ガス(a)で加圧されています。 ガス密度または圧力に応じてベローズが動き、それに因りユーザーの設定したセットポイントでマイクロスイッチ(h)をオン・オフします。 リファレンスガスと絶縁ガス容器内の絶縁ガスはベローズを介して熱平衡状態となり同じ挙動を示すため、温度変化はモニタリングに影響を与えません。 リファレンスチャンバー方式がガス密度モニタリングに最適であると言える所以となります。

基準室の原理の概略図基準室の原理の概略図

リファレンスシステムによる完全な温度補正により、絶対的な密度のモニタリングが可能に

ガス密度モニターは通常、プロセス接続 (b) で高電圧機器の絶縁ガス容器 (a) に直接取り付けられます。 Trafag のガス密度モニターは、ユーザーの仕様に対応した絶縁ガス(リファレンスガス)で満たされた一体型の金属製ベローズ (d) を備えたリファレンス チャンバー (c) 方式を採用。 金属製のベローズを介して、機器のガス容器内絶縁ガスとリファレンスチャンバーに充填された絶縁ガスが熱平衡状態となります。 周囲温度の変化は、機器のガス容器内の圧力変化と同程度の影響を、リファレンスチャンバー内の圧力にも影響を与えます(定容時の状態変化)。 その為、ガス圧力に対する温度の影響は本質的に補償され、周囲温度が変化しても非常に正確なガス圧力 @ 20 °C (密度に準ずる)がインジケータに示されます (i)。 周囲温度の変化によってスイッチが誤作動することはありません。 高電圧機器のガス容器とリファレンスチャンバーは密閉構造です。その為、気圧変化(天候や高度の変化)も影響を受けません。したがってリファレンスチャンバー方式はガス密度の絶対的なモニタリングを可能にします。


ベローズセンサーが直接マイクロスイッチを作動させます

それぞれのマイクロスイッチは、圧力上昇または低下に対して設定して出荷するので、密度があらかじめ設定したスイッチポイントを超えるとマイクロスイッチは段階的に作動します。 スイッチポイントの正確さは製造後に-25℃、+20℃、50℃の雰囲気温度で試験しています。

過酷な屋外環境で使用するために

機器のガス容器内のガス圧力(a,e)がガスの漏洩などにより低下すると、リファレンスチャンバー内に密閉されたリファレンスガスの圧力(f)に因り、スイッチプレートとスイッチロッド(g)は下降します。機器のガス容器内のガス(a)とリファレンスりガス(c)の温度均衡に影響を与える様な局所的な環境条件の場合、例えば強烈な直射日光や、急激に変化する極端な気象条件下の屋外用途では、オプションの防熱カバーが温度均衡を守ります。

スイッチ動作の一例

トラファグガス密度モニターのスイッチ動作について説明します。

  • 機器のガス容器内の条件:絶縁ガス圧力(密度):6.1bar abs. @ 20℃ SF6ガス
  • SP1: 5.7 bar abs. @ 20℃ (下降時):絶縁ガス補充のための警報
  • SP2: 5.5 bar abs. @ 20℃ (下降時):緊急停止のための警報
  • SP3: 5.5 bar abs. @ 20℃ (下降時):緊急停止警報の冗長化用
  • SP4: 6.4 bar abs. @ 20℃ (上昇時):絶縁ガス過圧警報
  • ガス密度モニターのリファレンスチャンバー内の条件(SP1設定値に準拠):5.7 bar abs. @ 20°C, SF6 ガス密封

マイクロスイッチ①:絶縁ガス補充のための警報
圧力が最初の設定値(SP1)の 5.7 bar abs.@ 20℃ を下回ると、1つ目のマイクロスイッチが作動し、最初の警報が発信されます。一般的に最初の警報は、機器のガス容器内に絶縁ガスを再充填する必要があることを示します。

マイクロスイッチ②③:緊急停止のための警報
警報①よりさらに圧力が低下した場合(例:5.5 bar abs. @20 ℃以下)、一般的には機器の緊急停止用の警報として冗長化させた2つのマイクロスイッチ(SP2およびSP3)が作動します。この時点では、もはや機器の操作上および機能上の安全性は保証されない状態です。

マイクロスイッチ④:絶縁ガス過圧状態の警報
4つ目のマイクロスイッチ(SP4)は、例えば、圧力コンパートメントの再充填時に不要な過圧状態を監視するために使用できます。 圧力値が6.4 bar abs. @20 ℃を超えると、マイクロスイッチが作動し、加圧状態を知らせる警報を発信します。


リファレンスチャンバー方式は、次のトラファグ製品に採用されています。

著者について

Kevin Beele

Product portfolio management Gas density monitoring instruments

Dipl. FH(計測技術)、
理学士(機械工学

Kevin Beele, 製品ポートフォリオ管理 ガス密度モニタリング機器Kevin Beele, 製品ポートフォリオ管理 ガス密度モニタリング機器